40歳前後と思われる
ワイシャツの袖をまくりあげ
PCに向かっているかと思うと
かかってきた電話を受け
指示を仰ぎに来た部下には
短く的確な指示を出す
いかにも働き盛りの男
離島体験が彼を変えたことを
誰ひとり知らない
20歳のなまくら学生だった男は
楽して暮らそうと
離島にあこがれ
瀬戸内海のある島を訪れた
移住請負団体の管理人に案内され
1宿1飯の予定を7日に伸ばしてもらい
隅々まで案内された
浜辺で一日ぼんやりと過ごしたり
農作業の手伝いをしたり
あるとき
山の急斜面の畑で働く
90歳を超えた老婦を見た
その時から
男は変わった
変えられた
老婦が男を変えてしまった
別人のごとく学業に励み
そのあとは言うまでもない
激務をこなした夕方
高層ビルのオフィスの窓辺に立つとき
心は離島と老婦に向かって
さまよい出るのだった