秋だから
そして晴れていたから
先祖のことを思うてみた
記録に残る先祖ではなく
弥生時代いや
そのまた昔の大昔の
先祖のことを思うてみた
先史時代 石器時代
衣服はむろんなく極寒極熱のなか
ひもじいままに
大陸を歩きに歩いてこの地に
たどり着いた先祖のことを
その強靭なる精神と身体とを
思うてみた
秋だから
そして晴れていたから
先祖のことを思うてみた
記録に残る先祖ではなく
弥生時代いや
そのまた昔の大昔の
先祖のことを思うてみた
先史時代 石器時代
衣服はむろんなく極寒極熱のなか
ひもじいままに
大陸を歩きに歩いてこの地に
たどり着いた先祖のことを
その強靭なる精神と身体とを
思うてみた
おしゃべりな詩人がいた
ユーモア 機知 ウィット
あらゆる話題で楽しませてくれた
しかし詩神はとんと降りて来なかった
おしゃべりな詩人は
父が逝くと寡黙になった
時が過ぎて
母が逝くと
もっと寡黙になった
時をおかずはらからが逝くと
語る言葉を失い沈黙した
そうして
詩神は降りて来たのだった
半世紀にわたり読み継がれている本。
大島みち子さんの詩を再録したい。
病院の外に、健康な日を三日下さい。
一日目、私は故郷に飛んで帰りましょう。
そしておじいちゃんの肩をたたいて、
それから母と台所に立ちましょう。
おいしいサラダを作って、父にアツカンを一本つけて、
妹達と楽しい食卓を囲みましょう。
二日目、私は貴方の所へ飛んでいきたい。
貴方と遊びたいなんて言いません。
おへやをお掃除してあげて、
ワイシャツにアイロンをかけてあげて、
おいしいお料理を作ってあげたいの。
そのかわり、お別れの時、
やさしくキスしてネ
三日目、私は一人ぽっちで思い出と遊びます。
そして静かに一日が過ぎたら、
三日間の健康ありがとうと笑って
永遠の別れにつくでしょう
紅白の萩の花
楚々とした可憐な花
名まえに似合わず繁殖力は旺盛
年に2回開花し根は四方八方に広がり
行きついた先で一群れの萩となる
放置されれば数年を経ずして
萩の林に成り代わる
音が消えてしまったような
深夜未明の分娩室で
しずかにしずかに
ゆっくりとゆっくりと
赤子が産道をくぐって
頭から現れる
全身が外に出ると
声をあげて泣く
泣いているのではない
呼吸しているのだが
あまりに激しい呼吸は泣声になる
そばに二人の婦人がいる
一人はうれしさのあまりおしゃべりが止まらない
もう一人はうれしくて何も言わず涙がほおをつたう
後者は決まって生み終えたばかりの産婦の母である
「急ぐ」と一言云ったばかりに
タクシーは飛ばしに飛ばし
目的地に時間内に到着
乗客は眩暈に頭痛、嘔気に嘔吐
苦しみながらビル内に消えた
スピードに懲りた乗客は次の日
「飛ばすと嘔吐する」と運転手に警告
驚く運転手は時速30キロ
あわれに思ったのか
「お客さん」
飛行機は大丈夫ですか
船は 電車は 飛行機は
高速バスは 新幹線は
と乗り物づくしを始める始末
わたしはエレバーターが苦手でしてね
自転車にも追い抜かれる車中で
乗り物酔い談義に
花が咲く
季節は速足ですぎてゆき
酔い止めを服用し
機上の人となったくだんの乗客
滑走路に向かう機体に
大きく手をふる整備士の姿が
小さくなっていく
無事に飛んでくれ
手術を終えた外科医のように
願いのこもった両手の動きが目にしみた
1分1秒も惜しい朝の出勤前
電話が鳴る
(ワンルームマンションのセールスだ)
ドアチャイムが鳴る
(宅配便だ)
トースターのパンは今にも
焦げそうだ
(すでに焦げてしまった)
トイレにかけこみたくなった
財布が見当たらない
携帯はどこだ
ヤカンの湯は沸騰し
空だきになろうとしている
コーヒーをのむ時間だけは
けずれない
毎日
朝はパニック
短かった今年の夏
もう終わったのか
まもなく終わるのだろうか
気温が下がるのはうれしいけれど
夏が去るのはさびしい
さようなら夏
夏は来年また来る
けれど
私がまた来る夏に会えるかは
確かかどうかわからない
朝の出勤時間と通学時間
自動車、バイク、自転車
黄色信号ならすっ飛ばし、
赤信号でも走り抜ける
追い越しをかけ
かけられた追い越しをかわす
いらいらした雰囲気が道路にみなぎる
気をつけなくては
事故にまきこまれないように
ぐっと緊張感が高まるときだ
誰かいないのか
早めにゆったりと出勤する者は
あんなに急いで出勤した後で
いい仕事ができるのか
せめて自分だけは朝の疾走に
加わらないように
飛行機雲を見上げたり
街路樹の変化に気がつくような
そんな人でいたい
女三界に家なし
だそうだ
男三千世界に家なし
こんなにも男はつらいよ
男の隠れ家なんてとんでもない
住処すらない者に
隠れ家のあるはずはない
天空に蜘蛛の巣を張るがごとき
至難の業を強いられる
ああ蜘蛛がうらやましい
枝から枝へすばやく作り上げ
だんなよろしく獲物を待つだけ
作っても作っても破壊される巣を
きょうもまた作り続けるのだ