空に天井がもしあれば
さぞや気分は悪かろう
どこまでが空で
どこからが宇宙か
その境界は知らない
それにしても
天井なき空の深さ
空に天井がもしあれば
さぞや気分は悪かろう
どこまでが空で
どこからが宇宙か
その境界は知らない
それにしても
天井なき空の深さ
男は
一階あたりは6畳の広さだが
10階建てどころか
もっと高い塔の家に住んでいた
ふだんは1階、
ときどき2階、
たまには3階
そんな住み方だった
4階以上は行ったことがなかった
台風の過ぎた日
あまりに空が美しく
男は
上の階へと昇り始めた
我が家なのだが
知らない空間に目を瞠るうち
だんだん高く高く
下界を見下ろす階に届いた
やめればよかったのだが
さらに高く昇って行った
男は降りることを忘れ
住民は男の存在を忘れた
同じ母ネコから生まれた三匹の子猫
エサ皿に顔を押し付け合って
何やら話し込む
おなかがいっぱいになるまで
食べるって
幸せな気分
確かにネコの餌箱はすでにカラッポ
お天気がいいって
幸せな気分
確かに空は青く澄んで晴れている
あんなふうに顔を寄せ合って
日差しに目を細めて
きょうは恐ろしい大型ネコは
まだ現われない
子ネコにとって
こんないい日はない
松くい虫にやられてしまった
赤松が切り倒されることになった
切り倒し作業は困難をきわめる
庭園の主は残念な表情をして
作業現場をうろうろしながら
眺めている
植えてから40年
15メートルを超えた巨木が
一日で切り倒された
風のとおりがよくなり
あたりには松の香がただよっている
耳に心地よい詩を書くのが
詩人の仕事ならば
そうするだろう
目に美しいものを歌うのが
詩人ならば
そうするだろう
口当たりのよい文句を
連ねるのが詩であるならば
そうするだろう
暗く哀しい歌を歌わねばならないのなら
そうするだろう
絶望に淵があるのなら
淵に沈み嘆きの歌を
歌わないといけないのなら
そうするだろう
なんという無節操
根拠なき自信だね
と人は嗤う
いいのだ嗤ってくれて
しかし人は知らねばならない
自信に根拠を求めることの結末jを
他方には
根拠なき劣等感とともに
生きる人がいる
当人にとっては
根拠があると言うのだが
いくら言い聞かしても
聞く耳はどこへやら
友だちが転校していくので
ぼくは泣いた
見ていた母は
会うは別れの初めだから
なぐさめにもならない言葉を
言うのだった
何年かしてその友だちと
再会したのだがお互いに
ぎこちない態度で時間がすぎていった
友だちであったあの時間が
二度とは戻らないことに
僕は肩を落とした
中古腕時計の収集が
趣味の男がいた
安物を買い集めてはコレクションを
作り上げるのだった
そんな男が言う
近頃の時計はさっぱり面白くない
本当かどうか
計り知れないのだけれど
物語『モモ』の中では
時間とは心のこと
逢瀬の別れ際に男が時計を見るのが
女にはさびしかった
時計ではなくて
私の目を見てちょうだい
女はいつも言うのだった
目は私の心そのものだから
さあ夕飯の買い物に出かけなくては
腰をあげた母に向かって
お母さん
行かないで
外は暗くて雪が舞い始めてる
ボクはひとりでさびしくなるから
きのうの残り物を食べようよ
私は年老いてしまったから
さあ逝かなくては
お母さん
いかないで
いかないで
ひとりで生きていける
そんな年にはなっていても
ボクには代わりになるような友達もいない
どこまでも続く
果てしない雪原をマフラーを
巻いた母がただひとり歩いていく
遠い所へいってしまう母の
姿がいつまでも見えるのであった
数え年で数えていた時代があった
正月にひとつ年をとる時代があった
そのころ誕生日はどんな日だったのだろう
子を産んだ母にとっては出産の日
出産の日を思い出すのが子の誕生日なのであった
英語を見てごらん
birthday
birthは出産のことだから
birthdayはホントは出産日なのさ
それなのに
birthdayは誕生日と
日本語になってしまった
子にとって
birthdayは母を思う日
自分の日と思ってはいけないよ