なんの役にも立たないけれど
砂浜をひとり歩いてみたい
どこへも行きつかないけれど
あてもなく
砂浜をひとり歩き続けてみたい
思い出の一シーンや忘れれられない言葉の
断片が浮かんでは消え浮かんでは消えていくだろう
浜辺に打ち寄せる波に合わせて
なんの役にも立たないけれど
砂浜をひとり歩いてみたい
どこへも行きつかないけれど
あてもなく
砂浜をひとり歩き続けてみたい
思い出の一シーンや忘れれられない言葉の
断片が浮かんでは消え浮かんでは消えていくだろう
浜辺に打ち寄せる波に合わせて
3歳 虹を指さして
にじと言えた
5歳 虹を見ては
駆け出した つかめると思っていた
18歳 虹を
忘れてしまった
20歳 きみがきれいな虹を見たと言った
22歳 虹を見るたび
きみを思い出すのだった
年年歳歳
したいことが後景へ退いて行き
年年歳歳
せねばならぬことが前景へせり出し
年年歳歳
自分の意志はいらなくなり
年年歳歳
運命を知るようになる
自らの力で飛んでいるのか
それとも
風に流されているだけなのか
鳥の飛行は神秘である
この季節
つばめは集合地点に集まり
南へ飛び立つ日を待つ
ようやく一人前になった新米つばめも
初飛行をするのだ
方角、日程、目的地はすでに決まっており
考える余地は何もない
神は私の意志を必要としない
つばめにこそ当てはまる
人もそうでありたいのだが
神は私の意志を必要としない
運命がすべてを決めているのだから
もしきょうが最後の一日だとしたら
ぼくは何をするだろう
いつものように
朝、仕事が始まる
きょうがその最後の日だとしたら
ぼくはどんな働きをするだろう
落ち葉をはいたり
枯葉をみので片付けたりする
秋の最後の日だとしたら
ぼくはどんな気持ちでそうするのだろう
もしきみと話す最後の日だとしたら
ぼくは何を聴くだろう
風が一吹き
もみじの葉が散っていく
はらはらと
別れの時が来たのだ
涙が落ちる
はらはらと
枝に葉が萌えいでた春に始まり
季節をくぐって赤く染まり
その長い旅路を思うとき
いとおしい物であるかのように
落ち葉をほうきではいて集める
何と別れたのだろう
このさびしさは
音もなく現われ
また音もなく消えていく
飛行機雲が好きだ
何も語らずただそこにあるだけの
その主張のなさが好きだ
見る人だけが見上げ
見ない人には知られない
その存在の希薄さが好きだ
それでいて
見上げれば必ず空にある
その確実さが好きだ
虹だとこうはいかない
あてにならない人は
虹のような人と呼ぶことにしよう
庭は狭いのがいい
歴史に残る名園は
広すぎて落ち着かない
猫の額くらいがちょうどいい
一本の樹木
景石がひとつ
苔が少々
後は白い玉砂利
猫がときどきくつろぎに来るような
そんな狭さがいい
もし広い庭なら
春の花が今が盛りと咲きほこり
次には夏の花が力いっぱい咲き続け
そのつらなりでは秋の花が余韻たっぷり咲き乱れ
そのまた次に冬の花が寒風に負けじと咲きこぼれる
一回りすれば
四季を味わえるような
そんなありもしない庭がいい
まことに坪庭こそが理想
二人ならんで腰かけて
ネコ以外ほかには
誰もいない空間で
木を見つめ
石を見つめ
互いの瞳にうつる
雲は流れていく
二人きりの完ぺきな世界
人が歩くのは
まっすぐの道
一直線だと安心していた
よそ見しながら歩いていても
側溝に落ちたり
ガードレールにぶつかる心配はなかった
寄り道だってしたいほうだい
しだいに狭くなっていき
車一台が通れるほどの狭さから
人一人がやっと通れる狭さへ
さらに狭まり
両側の石壁のあいだを体を横にして歩くと
なんと
次は綱渡りが待っていた
人生とはかくのごとし
のんきなのんきな中学生のころ
数学の時間に
直線とは幅のないもの
点と点を結ぶのだが
太さはありはしない
だから架空のもの
こんな話を聞いて
また心地よい
午睡におちいった
まっすぐとはこわいもの
直線とはおそろしいもの
三角でも四角でも
円でもなんでもいい
平らな地面の広がりならどこでもいい
安息の地はないものか
毎月、その日になると
決まって現われる高齢男性がいた
注文はホットコーヒー二つ
亡妻の遺影をテーブルに立てて
自分の前に1客
写真の前に1客
コーヒを置いてもらうのであった
店員がふしぎに思い尋ねてみると
その店に夫婦連れで
何十回となくコーヒを
のみに来ていたという
その習慣を忘れがたく
一人になった今も
老男性はやってくるのであった
店員は哀れに思い
もらい泣きするだった
冷めてしまったコーヒー1杯を残し
ゆっくりとした動作で
写真立てをしまい、
二人分の支払をして
店を出ていくとき
店員は後ろ姿を見つめていた