歌の中の世界では
いい日旅立ち
旅人はきまっていい日に旅立つ
けれども
いい日はないものと知らねばならない
悪い日旅立ち
路銀は不足
靴はぼろぼろ
そんな日こそ旅立ちの日だ
歌の中の世界では
いい日旅立ち
旅人はきまっていい日に旅立つ
けれども
いい日はないものと知らねばならない
悪い日旅立ち
路銀は不足
靴はぼろぼろ
そんな日こそ旅立ちの日だ
今日と同じように明日が
続くことは約束されていない
それを人は知っているのだけれど
誰も口にしない
危うい世界で
人は約束を求めるのだ
あたかも一夜ぎりの旅を
くりかえす旅人のように
二日と続けて泊まることはできないのに
夜になり寝る時間が近づくと
「お母さん 明日は来るの」と
5歳の女の子は母にたずねるのだった
「ぜったいに明日は来るからね
心配しなくていいのよ」
返事を聞いて女の子は安心して
眠りに落ちるのだった
母は知っている
明日という日が来ないこともあることを
それは母と永訣の朝
母と会える明日が二度とこない日
自分の娘には胸に秘めて言わないのだけれど
なすべきことは終わった
ひまひまに
人もうらやむ高級外車を駆って
遠出を繰り返す
旅は気ままに一人枕
歩道と対向車から
向けられる一瞥
称賛 嫉妬 軽蔑 憧れ
あらゆる感情がその瞳にこめられる
ほんのときおり
若い女と見間違えて
早合点の若者 紳士の
求める視線がたまらない
暑いと言っては夏休み
気候がいいと言っては秋休み
正月来たよと冬休み
桜が咲いたら春休み
これじゃほんまに
働く暇(いとま)がないわいな
人は強くまた人は弱いもの
ただ一つのことが心の支えとなることもあれば
多くのものを持ちながら何一つ心の支えと
ならないときもある
そうだった
あの頃
ただ一つのことが心を支えていた
明日また会える
君と夕暮の町を歩きながら
日が沈むときが来ると
離れ離れになるのであった
明日また会える
このことだけが生きる意味を与えてくれた
一瞬とは永遠の時間のこと
永遠とは一瞬の時間のこと
一瞬の中に永遠を感じとることができないのなら
永遠に生きたとしても
この生のエッセンスを感じられないだろう
一瞥(いちべつ)
なんてすてきな言葉だろう
一瞥を交わす
瞳の中を見るときに
すべてが語られる
言葉ではなく
ぼくの先祖には
エジプト、トルコ、中近東に生きた者が
いたにちがいないと思う
人類はアフリカ発祥だからだ
そんな祖先は馬と一緒に
暮らしていた
寝床も同じ 居間も同じ
だって馬小屋が家なんだから
きみはいつも言っていた
夏が好き 秋はきらい さみしいから
それを聞くたびに
秋に生まれたぼくは悲しくなっていた
今年最後のムクゲの花
開かないたくさんのつぼみを残して
ひとり咲いて地面に落ちて行った
背丈50ミリの苗を送ってくれた
ふるさとの父母に知らせなくては
いちじくの実のなる季節が来た
実を枝から手でもぎとると
乳白色の汁が指につく
せっけんで洗ってもかんたんには
とれないほどべたつく
ゴムの木とそっくり
きっと紀元前から
いちじくとゴムの木とは
近縁の植物だったのだろう