「雨にも負けず」の詩句では
でくのぼうと呼ばれ
これがこの詩の神髄である
言いかえをしてもいい
アホ バカ マヌケと呼ばれ
今日も
アホ バカ マヌケ
と呼ばれ
呼ばれ続けて
それにしてはたいしてめげずに生きている
そういう者に
私はなりたい
「雨にも負けず」の詩句では
でくのぼうと呼ばれ
これがこの詩の神髄である
言いかえをしてもいい
アホ バカ マヌケと呼ばれ
今日も
アホ バカ マヌケ
と呼ばれ
呼ばれ続けて
それにしてはたいしてめげずに生きている
そういう者に
私はなりたい
きみはアイロンかけをしたことがあるだろうか
きみはいつもアイロンかけをしているだろうか
ここにアイロンかけのじょうずな男がいる
貧乏学生だった頃にアイロンかけをおぼえた
おぼえた行為は習慣となり
思考を必要とせず腕が動く
男は毎晩
幼稚園の制服にアイロンを当てる
娘は四歳年少さん
定職がないわが身のふがいなさが
ときに脳裏をよぎるのだけれど
今夜もアイロンかけに余念がない
園から帰宅し娘が見せた表情を
思い返すとき手がとまる
服の上に一滴、二滴としたたり落ちた物があった
目からの涙だったのか
額からの汗だったのか
男はアイロンかけを続けた
家族の寝静まった夜の
闇の深さが一層深くなった
仲良しの
男の子と女の子
同じことに笑い
同じことにびっくりする
彼らは互いを理解していたのだろうか
おそらくそうではない
理解などいらなかったのだ
美しい誤解をしていたのかもしれぬ
たがいを好きだったので
欠けているものは何もなかった
外は晴れ
気温は摂氏22度
戸外には目もくれず
勉強机にかじりついて
計算問題、漢字ドリル、
朝から晩まで倦みもせず
親から言われたわけでもないのに
勉強机に向かって座り続け
人生を無駄にした男とも言えるのだが
ただひとつだけまともな感覚を持っていた
勉強机を設計する人はきっと
勉強したことのない人だな
天板下の引出しは使いづらい
引出しをあけるには椅子を後ろに
引かないとあけられない
男に女性が寄り添い
二人のあいだに幾人かのこどもが産まれた
食卓が男の勉強机にいつしかなっていった
食卓が一番
花の終わったサボテンの鉢ひとつ
単純な作りのその姿
鉢ひとつ
自分の忠実なしもべ
ほかにはいかなるしもべもない
自分を託することのできるもの
たった一つのサボテンの鉢
初対面の人同士
にこやかに和やかに
何やら楽しげに語らう
貴重で得難いときである。
けれど
彼らの間にあるのは友情と誤解
そして誤解はきまって美しい
誤解から理解にいたる時
真実はにがい味がする
人はふたたび孤独にひたり
美しかった誤解の時間をなつかしむのだ
空といい
天といい
宇宙という
このとりとめのなさ
よるべなさ
この宇宙のなかのどこに
身をおけばいいのやら
所有することは人にとって必須である
何から何まで人は所有せんとする
所属することは人にとって必須である
うわさ話の仲間に加わりグループを作り
人は所属せんとする
広大無辺の世界にあって所有できるものはわずかの物
わずかの物になぐさめられて
人は孤独を忘れるのだ
自分のために生きる者は滅び
他人のために生きるものは栄える
こう言っていいのかな
勉強机に事務机
机の種類は数あれど
食卓が一番好きだ
これから始まる食事の予感
食べ終わった後の満足感
わくわくして待ち
しみじみと余韻を楽しむ
そんな空間
それだから
勉強机に事務机なんて使わずに
いつも食卓ですませてきたのさ
食卓に向かって座ると
しみじみと懐かしい
父母や妹と顔を見合わせていたあの頃