招福の公式(平成27年11月23日)

晩秋だったので

ムーミンは落ち葉の掃き掃除に

朝早くから取りかかった

掃いたあとにすぐまた落葉し

いっこうに終わらなかった

 

離れた所で大工仕事をでしている

パパのところへ行って

「お父さん、幸せの公式ってあるの」

ときいた

 

ムーミンパパは手を休めて

「それはあるさ

わけもなく幸せになってしまうことさ」

 

風が吹き始め

飛ばされていく落ち葉を

ムーミンは目で追った

時(平成27年11月23日)

それは命そのもの

あなたの

わたしの

 

それは愛のこと

与えるもの

与えられるもの

 

それは宝物

奪ってはいけないもの

奪われてはならないもの

 

それは育っていくのに必要な時間

急ぐことはできない

短縮することはできない

 

それは惜しまなくてはならない

心そのものだから

 

それは時計で測られる

腕時計をはずしてはいけない

けれども

測りすぎてはならない

 

それは忘れなくてはいけない

生そのものだから

 

それはともにすごすもの

あなたとわたしの

二人の時

 

たとえ離れていても

二人の時は

シンクロナイズしあう

 

天井裏のいたち達(平成27年11月15日)

いたちといたち、雄と雌だったので

たちまち夫婦になり

あっという間もなく

仔いたちを産んだ

仔いたちは一度に二匹、三匹と増えるので

ネズミ算式を越えて

いたち算式に倍加していった

かくして

天井裏はいたち達の牙城となり

大音響をとどろかすのだが

家主はいっこう平気で暮らしている

彼は成人してから難聴となり

外出時以外は補聴器をつけない習慣だったので

いたち達の存在にはつゆ気づかず

穏やかな目をして

庭に来るスズメやハトを見つめるのだった

傘ひとつ(平成27年11月14日)

初めてふたりだけで会った日

公園の散策中に小雨が降りだした

傘はひとつ

わたしの手の中に

 

自分だけがさすのも気がひけて

かといって

あなたにさしかけるには勇気がいって

わたしは傘を握りしめたまま

 

あなたに二人でさそうと

言ってほしかった

大食漢(平成27年11月11日)

食うことには目のない男がいた

給料すべてを食べることにつぎこみ

食べることが生きがいになっていた

大した量を食べるのだが

いっこうに太らず

50歳というのに

スリムな体のラインを保っていた

 

この男には秘密があった

食べ物が消化器を通り

腸から先はふともも、ふくらはぎ、

足のうらを経て

地面のなかへと流れ込むのだった

 

 

ぷっつん(平成27年11月10日

何かに腹を立て

プッツンすると教室を飛び出して

家に帰る小学生がいた

これは確かな話である

私がいたクラスでときどき起きたことだから

3階にある教室の窓から

しだいに小さくなっていく後ろ姿をながめていた

 

あれは

はるか昔のことなのに

あまりにささいなことなのに

その光景とその女の子が

なつかしさといとおしさを

感じさせてくれるのだ

 

 

 

離島体験(平成27年11月10日)

40歳前後と思われる

ワイシャツの袖をまくりあげ

PCに向かっているかと思うと

かかってきた電話を受け

指示を仰ぎに来た部下には

短く的確な指示を出す

いかにも働き盛りの男

離島体験が彼を変えたことを

誰ひとり知らない

 

20歳のなまくら学生だった男は

楽して暮らそうと

離島にあこがれ

瀬戸内海のある島を訪れた

移住請負団体の管理人に案内され

1宿1飯の予定を7日に伸ばしてもらい

隅々まで案内された

浜辺で一日ぼんやりと過ごしたり

農作業の手伝いをしたり

あるとき

山の急斜面の畑で働く

90歳を超えた老婦を見た

その時から

男は変わった

変えられた

老婦が男を変えてしまった

別人のごとく学業に励み

そのあとは言うまでもない

 

激務をこなした夕方

高層ビルのオフィスの窓辺に立つとき

心は離島と老婦に向かって

さまよい出るのだった