書店に直行(平成27年12月3日)

夜道を歩いていると

なぜか

ワーズワースにキーツ

英国詩人の作品を読まねばならぬと

がぜん思いこんだ

オンライン書店で買ってはだめだ

図書館もだめだ

書店へ直行しなくては

書棚を探し

見つけなくては

新品の本で詠まなくてはならない

彼らが心血をそそいで

訴えたかったもの

今すぐに

詠まなくてはならない

 

 

非日常(平成27年12月3日)

ボーナスから12月は始まり

うち続く忘年会で興奮は高まり

理性を失わないほうが不思議

 

中休みもなく

非日常の興奮はいやがうえにも高まる

 

天皇誕生日

クリスマスイブ

クリスマス

3連続の祝祭が待ち受ける

まだ終わらない

非日常はさらに強まる

大晦日

元日

三が日

除夜の鐘つきが終わると

群衆に溶け込んで初詣

怒涛のような興奮がうずまく

希望と夢と(平成27年11月29日)

草花の種や球根

樹木の苗を見るとき

花開いた姿をありありと

思い描き

希望と未来を

種と球根また苗に感じとる

 

春4月

新しい教科書や辞書またノートを

前にして

獲得した知識と技能を駆使して

世界を理解し世界を歩む自分の将来の姿を

思い描く

 

まことに希望とともに人は生きる

けれど希望という字の

ことに希という字の

このあはれさは何としたものか

希とは稀(まれ)なこと

希望とはめったなことではかなわないのだよと

言い含められているに等しい

夢という字のはかなさよ

儚い(はかない)という字を見てごらん

 

 

人が携えて生きるもの

それは

希望ではない

夢ではない

必要なものは忍耐力

 

両腕を広げてもかかえきれないほどの大木も

産毛のような柔らかな苗から育ち

九層の塔も一すくいの土から建ちあがり

千里の道も一歩から始まる

老子

みじめの公式(平成27年11月29日)

ムーミンは谷に

降り始めた雪を見ていた

上から下へ

ななめ上からななめ下へ

風にあおられて

くるくる舞う白い羽根のよう

あきずに眺めていた

 

風が止み日が射し

青空が見えたとき

ムーミンは冷たくなった手を

ママに暖めてもらいに

家の台所へ行った

 

ママは冬眠からさめたときに

食べられるように

ジャム作りをしていた

「ママ、みじめになる方法ってあるの」

 

ママは答えた

「自分のことを考えるといいのよ

自分がもらって当然のもの

みんなから自分が好かれること

自分が誰からもやさしくされること

そんなことを考えていると

きっとみじめな気持になれるわよ」

 

ムーミンは暖めてもらった手に

手袋をつけて

外へ行った

 

西の空が茜色に染まる

ムーミンの好きな時間だった

持たない生き方(平成27年11月27日)

住まいは持たず

アパートに寝起きし

妻子はもたず

シングルライフ

部屋にはベッドとスマホ

それに小さなノートパソコン

台所はあっても

茶をいれることすらせず

コンビニ弁当で栄養は足りている

 

服は2,3着

シャツが少々

仕事だけはきちんとこなし

 

クルマは持たず

タクシー、自転車、電車、バス

何が楽しいのか

この人は

 

夜守 (やもり)(平成27年11月26日)

眠れない夜に

時の過ぎるのが長く感じるとき

この不眠症の男は思うのだった

地上に降りて来た

夜という物質を支えているのだ

朝になれば消えてしまう夜という物質

その守り神がオレだ

寝ずの番をつとめる任務を

自分は与えられているのだ

 

 

たった一人の紅葉山(平成27年11月26日)

都会から離れた農村地帯の奥に

その紅葉山はあった

交通不便な所だが

それが幸いして混雑せず

傾斜面に腰を下ろせば

背後の紅葉林と下界が

遠望できた

 

30年前から一人の男が

楓の苗木を植え続け

千本を超える林に育った

自然落下した種が育ち

男の手を借りなくとも

林は成長していったのだった

 

 

 

 

 

人間の条件(平成27年11月24日)

人間の条件をただひとつあげてみよ

こう言われたら

きみは何をあげるだろう

 

しがない板金屋のおやじでさと

自嘲気味に語る

この男は

もらい泣きのできる人と

答えた

 

学問があればそういう人になるわけでもなく

学問がなくてもそういう人がいる

学問は関係がなさそうだ

 

もらい泣きのできる人

宮沢賢治ではないが

そういう者にわたしは

なりたい

 

松の木の香(平成27年11月23日)

松の木のにおいを思いっきりかぎたい

松脂が枝や幹ににじみ出ている

そんな松の木の香を胸いっぱいに吸いたい

手に付着すればかんたんにはとれない

そんな脂のにおいが好きだ

 

松林を歩くと、香りに惹かれて

どんどん歩いて行ってしまう

浜辺では潮の香

ふたつのにおいに

心が満たされる

どこまでも歩き続けたい