シューベルトは800の歌曲を作った
後世のわれらは一生涯かけて
800作品を味わい尽くす
800の歌を作らねばならぬと
われらも自分に言い聞かせるのだ
シューベルトは800の歌曲を作った
後世のわれらは一生涯かけて
800作品を味わい尽くす
800の歌を作らねばならぬと
われらも自分に言い聞かせるのだ
夜道を歩いていると
なぜか
ワーズワースにキーツ
英国詩人の作品を読まねばならぬと
がぜん思いこんだ
オンライン書店で買ってはだめだ
図書館もだめだ
書店へ直行しなくては
書棚を探し
見つけなくては
新品の本で詠まなくてはならない
彼らが心血をそそいで
訴えたかったもの
今すぐに
詠まなくてはならない
ボーナスから12月は始まり
うち続く忘年会で興奮は高まり
理性を失わないほうが不思議
中休みもなく
非日常の興奮はいやがうえにも高まる
天皇誕生日
クリスマスイブ
クリスマス
3連続の祝祭が待ち受ける
まだ終わらない
非日常はさらに強まる
大晦日
元日
三が日
除夜の鐘つきが終わると
群衆に溶け込んで初詣
怒涛のような興奮がうずまく
草花の種や球根
樹木の苗を見るとき
花開いた姿をありありと
思い描き
希望と未来を
種と球根また苗に感じとる
春4月
新しい教科書や辞書またノートを
前にして
獲得した知識と技能を駆使して
世界を理解し世界を歩む自分の将来の姿を
思い描く
まことに希望とともに人は生きる
けれど希望という字の
ことに希という字の
このあはれさは何としたものか
希とは稀(まれ)なこと
希望とはめったなことではかなわないのだよと
言い含められているに等しい
夢という字のはかなさよ
儚い(はかない)という字を見てごらん
人が携えて生きるもの
それは
希望ではない
夢ではない
必要なものは忍耐力
両腕を広げてもかかえきれないほどの大木も
産毛のような柔らかな苗から育ち
九層の塔も一すくいの土から建ちあがり
千里の道も一歩から始まる
老子
ムーミンは谷に
降り始めた雪を見ていた
上から下へ
ななめ上からななめ下へ
風にあおられて
くるくる舞う白い羽根のよう
あきずに眺めていた
風が止み日が射し
青空が見えたとき
ムーミンは冷たくなった手を
ママに暖めてもらいに
家の台所へ行った
ママは冬眠からさめたときに
食べられるように
ジャム作りをしていた
「ママ、みじめになる方法ってあるの」
ママは答えた
「自分のことを考えるといいのよ
自分がもらって当然のもの
みんなから自分が好かれること
自分が誰からもやさしくされること
そんなことを考えていると
きっとみじめな気持になれるわよ」
ムーミンは暖めてもらった手に
手袋をつけて
外へ行った
西の空が茜色に染まる
ムーミンの好きな時間だった
住まいは持たず
アパートに寝起きし
妻子はもたず
シングルライフ
部屋にはベッドとスマホ
それに小さなノートパソコン
台所はあっても
茶をいれることすらせず
コンビニ弁当で栄養は足りている
服は2,3着
シャツが少々
仕事だけはきちんとこなし
クルマは持たず
タクシー、自転車、電車、バス
何が楽しいのか
この人は
眠れない夜に
時の過ぎるのが長く感じるとき
この不眠症の男は思うのだった
地上に降りて来た
夜という物質を支えているのだ
朝になれば消えてしまう夜という物質
その守り神がオレだ
寝ずの番をつとめる任務を
自分は与えられているのだ
都会から離れた農村地帯の奥に
その紅葉山はあった
交通不便な所だが
それが幸いして混雑せず
傾斜面に腰を下ろせば
背後の紅葉林と下界が
遠望できた
30年前から一人の男が
楓の苗木を植え続け
千本を超える林に育った
自然落下した種が育ち
男の手を借りなくとも
林は成長していったのだった
人間の条件をただひとつあげてみよ
こう言われたら
きみは何をあげるだろう
しがない板金屋のおやじでさと
自嘲気味に語る
この男は
もらい泣きのできる人と
答えた
学問があればそういう人になるわけでもなく
学問がなくてもそういう人がいる
学問は関係がなさそうだ
もらい泣きのできる人
宮沢賢治ではないが
そういう者にわたしは
なりたい
松の木のにおいを思いっきりかぎたい
松脂が枝や幹ににじみ出ている
そんな松の木の香を胸いっぱいに吸いたい
手に付着すればかんたんにはとれない
そんな脂のにおいが好きだ
松林を歩くと、香りに惹かれて
どんどん歩いて行ってしまう
浜辺では潮の香
ふたつのにおいに
心が満たされる
どこまでも歩き続けたい