洞察(平成28年11月15日)

どうさつと言うので

それはちがう とうさつが正しい

年のかさが半分もない若者らを前に

断言した

若者らは顔を見合わせた

 

調べてみると どうさつ

半世紀のあいだ とうさつと読んでいた

洞窟 洞爺湖

胴 桐 銅

どうもあればとうもある

 

翌日 若者らに

前言撤回 妄言多謝

頭取(平成28年11月15日)

とうとり、とうとり

繰り返し口に出したのは

著名な病院長であった

卒業はもちろん東大医学部

えらくなりすぎたためであろう

誰も注意してくれる人がいなかった

 

とーとり、とーとり、とーとり

なぜか笑いたくなった時間であった

 

 

風に吹かれて(平成28年11月13日)

ボブ・ディランはうまい歌を作ったものだ

解答ができない問いから

歌い始めて

風がその答えを知っていると

サラリとかわす

決して答えずして終わりへと持っていく

 

歌だからできること

けれど

解答なき問いはこの世に満ち溢れ

亡霊のように

つきまとう

いっそ

われらも風になりたい

マリンバカ(平成28年11月13日)

マリンバいうて太鼓かと思とった

あんた物知りなわりに知らんのやな

2メートルもある太鼓があるわけないやろ

バカのところがあるんやな

そうやマリンバカなんや

 

しかしな

わては物知りとちゃうで

それやったら何や

知ってることをしゃべってるだけや

知らんことはしゃべれんで

知ってることだけをしゃべってるさかい

物知りに見えるだけなんや

そうかいそうかい

それはそうと

チューバを知ってるか

そんなん知らん

そしたら

チューバカやな

東大駒場に夕日が沈む(平成28年11月13日)

渋谷駅の賑わいあるいは喧噪から

電車で6分

降り立つ駅は東大駒場

学園にはつきものの楽器音もなく

なんという静けさ

正門前が袋小路で

クルマが通過できないために

できあがったこの静けさ

 

けれど静けさにしみじみと

さびしい気持ちにさせられた

カラマツ林どころではない

若者の姿は見えるけれど

ちらほらと見えるのだが

その数の少なさ

 

講義が終われば交わす口数少なく

めいめいの方向に帰ってしまうのだろうか

学園祭前だというのに

この人影の少なさ

 

思えば教室と食堂と図書館

これだけが学生の居場所

こんなのでいいんだろうか

 

東大駒場に来ることはこれからだってあるかもしれない

けれど二度と学生として来ることはできない

当たり前だ

卒業とは後戻りできないこと

 

構内の片隅にバラがいく株も咲いているのを見つけた

見たこともない珍しい品種らしく

高貴な姿をしている

さびしい風景を打ち消してくれた

ああ 今こそ夕日が沈む

 

真田ひも(平成28年11月13日)

くだんの喫茶店へ行くと

いつものとおり

ジジババがあちこちの

席にたむろして

しゃべくりあっている

聴くとはなしに聞いていると

 

あのなあ

真田丸見てるか

見てるやろ

真田紐いうて知ってたか

 

知らん 知らん

そんな紐

 

まあええねん ともかく紐や

真田が作ったひもなんや

 

真田紐がどうしたんや

 

それがなあ

サナダムシいうて 腹に寄生するムシがあるやろ

真田紐に似てるさかい

サナダムシいうんや

 

そうかいそうかい

真田も虫の名まえになって生きとるんやなあ

 

小学校の理科の標本室においてあったやろ

ガラスの中にうねうねとしてたやつ

おぼえてるか

 

思い出したわ 気色悪かったなあ

あんなんが腹にすまれたらかなわんで

ぞーっとしてたわ

 

そうやあれは学校へ卸に来る業者さんが

売りつけたんやと思うな

生徒をびっくりさせたろ思うて

校長先生が買いはったんやなあ

 

今どきはないらしいで

 

そうか

ムシがとれへんようになったんやなあ

 

行かなくちゃ(平成28年11月13日)

一度行かなくちゃ

ならない

近くまで行かなくちゃ

ならないのだ

鉄人28号を見るために

 

阪神淡路大震災のあと

神戸市長田区若松町

若松公園に設置された

鉄人28号

 

手塚治虫の漫画の絵とは

かけ離れているように

思うのだが

 

それはそれでいいのだが

若松公園は住んでいた家の真裏にあった

JR山陽線の新長田駅のすぐ真南、

電車の窓からよく見えている

 

一度行かなくちゃ

近くへ行かなくちゃ

祖父祖母伯父叔母そして

いとこたち

記憶をよみがえらせるために

行かなくちゃ

ならない

 

 

とりこ(平成28年9月29日)

漁師に息子がいた

その男は漁に従事するうち

とりこになった

沖に出ると帰港したがらないのだった

ずっと沖にいたい

男はそう言い

帰港しても陸に上がらず船中から離れない

漁に魅せられた男には

沖が我が家になった

 

弾丸ツアー(平成28年9月28日)

孫 「おばあちゃん、私、弾丸ツアーに行ってくるよ」

祖母「おっかないね。その弾丸ってのは。危険なところへ行くのかい」

孫「そうでなくて。目的地へ一目散、という意味よ」

祖母「弾丸だから、行きっぱなしなんじゃないの。

帰ってくる弾丸なんて聞いたことない」

孫「そういわれたら、へん。でも私の弾丸ツアーは

ちゃんと帰ってくるの」

祖母「そうかい、気を付けて行っておいて」

孫「ところでおばあちゃん、お願いがあるの。

旅費が足りないの」

台風 今むかし(平成28年9月4日)

今も昔も台風は変わらない

8月 9月 ときに10月

列島を海上から陸上へと

南から北へと

西から東へと

突き進む

圧倒的な馬力だ

 

昔 むかし こどもの頃

無邪気だったから いや無責任だから

無責任だから いや責任は免除だから

台風を楽しみにしていればよかった

 

降りしきる雨

増水する川

水没する道路

停電

ろうそくの明かりが楽しくて

学校は休み

兄妹で遊んでいればよかった

 

台風一過

空の青さが目にしみた

海浜を見に行った

波はまだ荒々しく

流木とそれを拾う大人の姿

浣腸までが落ちていたよ