秘密の釣り場(2017年6月17日)

6月になり気温が上がり
アユ釣りが解禁される頃になると
決まって思い出すことがある

あゆ釣りの名人と言われる男がいた
休みの日
早朝から一人
秘密の釣り場へ出かけていく

大勢の友人が一緒に連れて行ってくれと
懇願するのだが
彼はかたくなに断り続けた
お前らにはまだ早いぞ

8月のある暑い日のこと
日曜日だったので
早朝から一人うきうきとした気分で
秘密の場所へ出かけて行った
そして帰ってきたとき
彼は生きている人ではなかった

川中で転倒し起き上がれず
溺死したのだった
残された妻と息子は嘆いた
お父さん
友だちを連れで行っていれば
あなたは助かったのに

当たらずとも遠からず(2017年6月17日)

父の口癖の一つが
当たらずとも遠からず
だった

小学校5年生の一年間
毎夜毎夜3時間
父から勉強を習っていた

質問されて答えると
しばしば
父はこう言うのだった
当たらずとも遠からず
正解ではないのだよ
しかし
まったくの間違いではない

そこで再び考えをめぐらして
答えを言う
再び
当たらずとも遠からず
そんなやりとりが
何回も続いて
正解へといたるのだった

何度も答えを探しているうちに
思考力が命を帯びたように
いきいきと動き始める
父はまた言うのだった
やっと油がのってきたな
勉強を始めてから
1時間も2時間もすぎて
ようやくにして
本気になるのだった

やる気(2017年6月4日)

どこにあるの?
私のやる気は
探し求めてさすらいの旅
日が暮れ夜が明け
早くも季節はめぐりゆく

先払いのレストランのように
先に見せるもの

先に行動を起こせば
やる気があとからついてくる
そうなれば
しめたもの
やる気がぐいぐいと君を引っ張っていく

やる気ほど誤解されているものはない

去りゆく5月(2017年5月29日)

4月は終わった
6月はまだ来ない
こんな日には
波打ち際で
日が暮れるまで
足をひたして
歩いていよう

夕焼けに空が染まり
水が急に冷たくなる
そんな時刻に
まだあたたかい砂を
はだしで踏んで
歩き続ける
どこまでも
あてもなく

三千世界(2017年5月14日)

20億光年の孤独
だってさ
こおろぎがささやく

そりゃそうだろ
20億光年しか知らなければ
孤独だろさ
ありが答える

オレらときたら
ずっとでかい世界に生きてきた
三千世界なんだぞ
三千世界には孤独なんて
ありやしない
孤独な生き物なんていやしない

母の日(2017年5月14日)

記念日は何のためにあるの
子は母にきいた
忘れるためにあるのよ
母の答えを子は理解できなかった

母亡き後の一人生きる時間
芯棒のないクルマに
乗ったらかくあらん
忘れ去ることに
勤めるありさま

かくて日々は秩序をとりもどし
母の日だけは
安んじて
思いにひたる
きょうの花々
カーネーション

かしこすぎる人(2017年5月13日)

賢すぎる目をしていたら
何をするのもむだに見えてくる
人のなすこと
世の動き
何から何まで
むだばかり

けれど
少し頭がノータリンなら
何もかもが美しく見える
自然の移ろい
世の動き
人のなすことすべてが
いきいきと

自分もその渦中で
踊りたい
その渦中に
融けていきたい

ふみんホールと二人の男(2017年5月13日)

一人の男がいた
すばらしい演奏だったな
途中で眠気がさしたけど
最後まで聞き飽きなかった
満足して男はホールを
後にした

もう一人の男がいた
ちっとも
眠れなかった
一晩中
こんな夜もあるもんさ
男はつらい朝を迎えて
ホールを後にした

一人目の男は府民ホールに
二人目の男は不眠ホールに
ときおり
足を運ぶのだった

5月(2017年5月6日)

月日は流れ去り
早くも時は5月
草いきれに夏の香りがただよう

3日 お経のごとくに憲法を読み
4日 庭に落とされたネコのフンの始末
5日 我らが手を離れたこどもは今いずこ

かくて連休は終わりぬ