6万人のシベリア抑留
その中に父は入っていた
厳寒の地に2年足らず
水の配給は一人コップ一杯ほど
口に含んでうがいをし
うがいが終わると両手に受けて
それで顔を洗った
そう
捕虜同然の者にとっては
水こそ命
定期的にソ連人医師による身体検査が
行われた
素っ裸にして女性医師の前に立たされるのであった
大きなペニスの男を見ると
女性医師がうれしそうな表情をしたという
女も飢えていたのだろう
父は早くに帰国を認められた
やせていたし
私とちがってなかなかのイケメンだったから
女性医師が情けをかけてくれたにちがいない
何十年もたつのに
毎夜水道栓はあいていないか
水は滴っていないか
就眠儀式のように
点検するのであった
水のしたたり落ちていく
一滴一滴を見つめている