二つ月ぶりに父と町のレストランで夕食をとった
反対方向にそれぞれが帰ることになり
私の乗ったエスカレーターは上に進み
プラットフォームの階についた
振り返ると
私を見つめる父の姿があった
その目がうるんでいるように見えた
さっき
目と目を見合わせて
きょうはさよならと
言ったばかりなのに
下りエレベーターに乗り
もう一度、父にさよならを言いたくなった
二つ月ぶりに父と町のレストランで夕食をとった
反対方向にそれぞれが帰ることになり
私の乗ったエスカレーターは上に進み
プラットフォームの階についた
振り返ると
私を見つめる父の姿があった
その目がうるんでいるように見えた
さっき
目と目を見合わせて
きょうはさよならと
言ったばかりなのに
下りエレベーターに乗り
もう一度、父にさよならを言いたくなった
冷たい手であった
まだ秋は始まったばかり
日差しは暖かなのに
カイロで温めなければ
かじかんでしまう
冷たい手であった
食べられない病気にかかり
体温を維持するためには
自分の体を燃やし
それでも体温は上がらず
カイロが頼りの
冷たい手であった
診療所のスタッフ皆で
手を握り
温めて
夜の闇をついて家路に送り出した
いつの日にか
成人し
温かな手になって
尋ねてくれることを
願った
いつの間にか
キンモクセイは出世した。
昔々のこと
元々は便所のそばに植えられる
雑木だったのだのに
今は愛でられる木になった
キンモクセイの香りが
漂う日に
青い空を見上げている人がいた
その人が逝って早二年
今年の開花は遅く
10月中旬になった
そのぶん 花のつきはよく
一面のオレンジの海のようだ
今日という日に
青い空を見上げて
キンモクセイの香りをかぎながら
亡妻を懐かしむ
キンモクセイは二度咲きすることを
誰か知っているだろうか
甦れ
妻よ
映画館が映画館だった頃
シネコンというものがまだなかった頃
一人の女子高校生が映画館へ一人で
映画を見に行った
隣の席の男が彼女の膝に
手を伸ばしてきた
彼女は言った
おじさん
そんなことしてたら
痴漢と間違えれるで
男は手をひっこめた
もしこの女の子が
痴漢や
助けて
と騒ぐこともできただろう
この女の子は
冷静だった
そして
賢かった
何か特別にいいことがあったわけではない
なにしろ
コロナだからね
そんな夏と
別れはさびしく
夏は立ち去りかねている
酔芙蓉が朝に花を咲かせている
なかなか来ない秋を
待ちわびて
ようやく出会った秋
キンモクセイの香り
今年は二度咲きになりそうにない。
娘は関東に
私は関西に
東と西に離れ離れ
結ぶのは LINE
日中はまだ暑いくらいの
初秋の日に
こんなやりとり
「そういえば そろそろお米がなくなる」
お米というのは3か月ほど前に
ふるさと納税で寄付した自治体から
送られてきた米のこと
「そいじゃあ また寄付してお米を
送ろうか」
「無洗米がいいな
冬は研ぐのが冷たいから」
そのあと ふるさと納税サイトで無洗米を探し
よさそうな自治体に寄付をした