昼夜逆転(2020年9月9日)

地球上のどこかに

昼夜逆転の国があるとして

そこでは他の国々とは異なり

夜に目覚め日中は眠る

どんな不都合もなく

人々は幸福に暮らしているという

各国から昼夜逆転に苦しむ人が

続々と集結しているという

ある若者が日本から かの国に向けて

旅立った。

しばらくは幸福に暮らしていた

夜になるとジョギングやウォーキング、仕事や勉強に

取り組み、食事はおいしく、しかもぜい肉はない

やがて自分の家が恋しくなり

父母の顔を思い浮かべて涙するように

なった

あまりに悲嘆は深く、かの国の

通常の生活ができなくなった

夜は寝て、昼間に目覚めているようになってしまった

そうして

この若者は日本へ

父母のいる家に帰ることにした

帰国した若者は

今は、昼間におきて夜に寝るようになった

谷底に落ちて(2020年9月5日)

私が 45歳のとき

母が逝った

「息子よ、私がいなくなってもあなたは生きていける。

私は逝きます。

ときどき私を思い出してほしい

私はいつもあなたのそばにいる」

私が63歳のとき

父が逝った

「せがれよ、わしがいなくなってもおまえは生きていける

わしは逝くぞ。

ときどきわしをおもいだしてくれ

わしはいつもおまえのそばにいる」

私が68歳のとき

妻が逝った

「夫よ、私がいなくなってもあなたは生きていける

私は逝くわ

ときどき私を思い出してほしい

私はいつもあなたのそばにいる」

頼る人、もたれかかる人が

次々と逝き、

そのたびに光のささない谷底に落とされ

はだしの足ではいあがってきたのだった