ゴッホ学者(2018年7月19日)

事務部門のあたりを通り過ぎるとき
「遠からずうちも身売りしないといけませんね」
係長と課長がひそひそ話をしていた

ゴッホ学者は時間講師だから
つまり風に吹かれて行先が決まるような
立場だから
たいして気にも止めずに
底のすり減った靴で
威勢よく教室へ向かった

さて本日はひまわりの作品解説である
スライド写真を見せながら講釈をするわけだが
この日はいつもとなにか違った
自分の解説に疑問を抱いたのだった

ひまわりを植えたことも育てたこともない
そういう自分が何をえらそうにしゃべっているのか

教室をあとにした
時間講師は帰り道に園芸店に立ち寄り
土、ひまわりの種、プランターを
買い求めた

次なる年
ひまわりが花を咲かせた
時間講師は目を細めて見つめていた

少女だったころ(2018年7月19日)

少女だったころの
この人には会ったことがない
どんな人も少女だったころの
しぐさや物言いを
いくつになっても忘れない

首をかたむけるしぐさや
手を動かすしぐさに
この人はいつも
こうやって
生きて来たんだなと
思う
長い年月

ひまわり(2018年7月19日)

かなで書いてみる

ひまわり

かたかなで書いてみる

ヒマワリ

またかなで書いてみる

ひまはり

漢字で書いてみる

向日葵

 

私が好きなのは

ひまはり

牧野植物図鑑では

ひまはりの説明をこう記している

太陽ニ向カイテ廻ルコトナシ

 

はらはらと花びらが散る感じは

やはり

ひまはりが

ぴったりする

 

秋が来たら

はらはらと散っていく

向日葵の花びら

はらはらと

流れ落ちる私の涙

 

夏は来ぬ(2018年7月16日)

夏は来ぬ
旅をするなら
若いうち

あのころは
夏を暑いと感じたことはなかった
海や浜辺や襲いかかる宿題の山山

鈍感だったのか
熱中するものがあったからなのか

海を見ているだけで
浜を歩くだけで
なんともいえないうれしさで
胸がいっぱいになっていた

一日のサバイバル≪2018年7月16日)

死が眠りなら
眠りは死だということになる

死は眠り
眠りは死

朝に目がさめるのは死から生還したことになる
そう目覚めは生還のこと

一晩の眠りのあと目覚めたら
一日分のサバイバルを果たしたことになる

明日の目覚めは約束されていないので
目覚めは奇跡である

一夜の眠りに続く朝の目覚め
一日分のサバイバル

異次元の世界(2018年7月13日)

ゆるやかな石段を登っていくと

玄関があり

ピアノ曲のレコードが聞こえていた

チャイムを鳴らすと

ピアノの音がとまり

玄関の扉があけられた

家の主がピアノを弾いていたのだった

レコードではなかったんだ

訪問の男は

驚き

異次元の世界へと

自分が引き寄せられているのを感じた