カラスへお仕置き(2017年7月11日)

むかしのこと

カラスは白い羽をしていました。

朝日を受けて空を飛ぶ姿は

銀色に光り、それは美しいものでした。

ところが人家のゴミをあさり

食べ散らかし

勝ち誇ったように鳴くようになりました。

そこで人々は

カラスにお仕置きをしてほしいと

村の神社に夜ごと夜ごと

お願いしました。

願いが聞き入れられ

カラスの羽を黒くすることに決まりました。

夏になると

カラスの体は熱くなります。

黒い羽が日を浴びて熱くなるのです

その熱さにカラスはあわれな声を出します

ごみあさりもできません

こんなわけで

夏のあいだ

カラスへ山の奥へ

森林の間へ

姿を隠すのです

デザイナー(2017年7月5日)

知人のデザイナーが立ち寄った

こんな話をしていった

君は視認性って聞いたことがあるかい?

もちろん知らないと答えると

つまりね こういうことだよ

見てすぐわかるのが視認性が高いと言うんだ

視認性が一番いいのは漢字

二番目にいいのは平仮名

三番目が片仮名

四番目がローマ字

君の名前が

松島次郎だとしよう

まつしまじろう

マツシマジロウ

matsusima jiro

どうだい?

藤井4段(2017年7月5日)

大阪方面に行く用事があり

電車に乗り、4人掛けのいすに

こしかけられた。

隣席の中年の男が

向かいの席の同じく中年の男と

大きな声で話し合っていた。

いやでも耳に入ってくる。

こういうのをとらわれの聴衆というのだそうだ

しかし話の内容は興味深いものだった。

連勝記録というものはいつかは止まるものだ

14歳からいつまでプロ棋士でいられるかわからないが

生涯勝率の方がずっとだいじな数字だ。

しかし連勝記録はフィーバーを起こすには

もってこいの数字だから報道会社にとっては

とびつくわけだ。

ところで元の記録保持者がテレビに出ていただろう。

名もない6段のプロ棋士だったろう。

そうなんだ。ぱっとしないプロの一人だ。

ということは藤井4段がもしかしたら6段止まりになるかもしれないわけだ

羽生や谷川のプロ棋士になってからの戦績を調べてみればいいのだ

ちっとも報道に出なかったことはたいした連勝記録はもっていないわけだ

これからわかるのは

連勝記録はその後の上達の程度を予想できるものではないこと

藤井4段は6段や7段の棋士で終わるかもしれない

ちらりと恐怖がうかぶ

こんなことは当の藤井少年が一番よく知っているはずだ

目の前の一番だけが将棋人生だ

今ここで生きる

身を以て知っているはずだ

それにしても幼くして打ち込むことを

見つけた藤井少年は幸せだな

オレなんかあっちへふらふら

こっちへふらふら

平々凡々

やりとおしたことは何もない

平凡だって悪くはないさ

電車は梅田駅に着いた

 

 

安寿と厨子王(2017年7月2日)

山椒太夫に捕えられた
安寿と厨子王は勤めを命じられた
安寿は川へ行き水をくみ
厨子王は山へ行き柴を刈り

水で重たくなった桶を運ぶのは
足がよろけたことだろう
柴の束を背に負うのは
背骨が折れそうだったことだろう

比べものにはならないけれど
彼らの苦しさよりは
ずっとましだ

こんなことを自分に言い聞かせて
励む人があちらにもこちらにも
その数は無数