万事金の世の中(平成28年1月3日)

その頃空は今よりも美しく

水は今よりずっと澄んでいて

海に油が浮かんでいたりはしなかったろう

貨幣がなかったあの頃のこと

 

いったん領主の怒りにふれたならば

生き埋め 火あぶり 水中投棄

命を差し出すことでしか許されなかった

 

貨幣ができて以来

金で解決されるようになった

命を奪われることがなくなった

 

お堅い話で言えば

原始 人類は刑法と刑罰しか知らなかった

そこへ貨幣とともに市民法と金での償いが考え出された

これを進歩と言わずして何と言おう

嗤いたければ嗤うがいい

万事金の世の中に成り果てたと

 

父が殺され 母が殺され 子どもが殺される

そんな時代よりも

たとえ水よごれ 空汚れ 海にごろうと

金で解決される世の中が住みよいと

守銭奴はこんなことを考えながら

元旦の賽銭箱に金を投げ入れた

 

 

 

 

詩の書けない時(平成28年1月1日)

どんなに思いをめぐらそうとも

詩の書けない時がある

書けなければ詩人ではない

ただの人である

ただの人でいたくなければ

一行でもいい

いや一語でもいい

何か心にとどまる言葉を書きつけよう

ある日ある時

誰かから放たれた一語

あるいは自分に浮かび上がった一語

なぜかはわからないけれど

深く心に届いた言葉ひとつ

その言葉ひとつがあるとき結晶していく

詩人はひたすら待たねばならない

言葉ひとつさえも残らない無数の日々がある

それでも

ひたすら待たなければならない

 

 

 

 

 

 

惜別 愛別(平成28年1月1日)

それはあまりにもあたりまえに

そこにあるものだから

その自然さ その当然さ

昨日と同じように今日があって

今日と同じように明日が続く

その自然さに

いつの日か

消えていくことに なくなっていくことに

思いを寄せることもしない

それが愛だとは気づくことなく

 

いつまでもひたっていたい

あなたとわたし