天井裏のいたち達(平成27年11月15日)

いたちといたち、雄と雌だったので

たちまち夫婦になり

あっという間もなく

仔いたちを産んだ

仔いたちは一度に二匹、三匹と増えるので

ネズミ算式を越えて

いたち算式に倍加していった

かくして

天井裏はいたち達の牙城となり

大音響をとどろかすのだが

家主はいっこう平気で暮らしている

彼は成人してから難聴となり

外出時以外は補聴器をつけない習慣だったので

いたち達の存在にはつゆ気づかず

穏やかな目をして

庭に来るスズメやハトを見つめるのだった

傘ひとつ(平成27年11月14日)

初めてふたりだけで会った日

公園の散策中に小雨が降りだした

傘はひとつ

わたしの手の中に

 

自分だけがさすのも気がひけて

かといって

あなたにさしかけるには勇気がいって

わたしは傘を握りしめたまま

 

あなたに二人でさそうと

言ってほしかった

大食漢(平成27年11月11日)

食うことには目のない男がいた

給料すべてを食べることにつぎこみ

食べることが生きがいになっていた

大した量を食べるのだが

いっこうに太らず

50歳というのに

スリムな体のラインを保っていた

 

この男には秘密があった

食べ物が消化器を通り

腸から先はふともも、ふくらはぎ、

足のうらを経て

地面のなかへと流れ込むのだった

 

 

ぷっつん(平成27年11月10日

何かに腹を立て

プッツンすると教室を飛び出して

家に帰る小学生がいた

これは確かな話である

私がいたクラスでときどき起きたことだから

3階にある教室の窓から

しだいに小さくなっていく後ろ姿をながめていた

 

あれは

はるか昔のことなのに

あまりにささいなことなのに

その光景とその女の子が

なつかしさといとおしさを

感じさせてくれるのだ

 

 

 

離島体験(平成27年11月10日)

40歳前後と思われる

ワイシャツの袖をまくりあげ

PCに向かっているかと思うと

かかってきた電話を受け

指示を仰ぎに来た部下には

短く的確な指示を出す

いかにも働き盛りの男

離島体験が彼を変えたことを

誰ひとり知らない

 

20歳のなまくら学生だった男は

楽して暮らそうと

離島にあこがれ

瀬戸内海のある島を訪れた

移住請負団体の管理人に案内され

1宿1飯の予定を7日に伸ばしてもらい

隅々まで案内された

浜辺で一日ぼんやりと過ごしたり

農作業の手伝いをしたり

あるとき

山の急斜面の畑で働く

90歳を超えた老婦を見た

その時から

男は変わった

変えられた

老婦が男を変えてしまった

別人のごとく学業に励み

そのあとは言うまでもない

 

激務をこなした夕方

高層ビルのオフィスの窓辺に立つとき

心は離島と老婦に向かって

さまよい出るのだった

 

 

 

欠点(平成27年11月8日)

誰かに対して欠点が見えるとき

そういうときこそ

よく考えるときだ

あら探ししたい衝動のせいかもしれない

その人物を嫌いだからかもしれない

自分を誇りたいからかもしれない

もし

ほんとにもし

あなたやわたしに愛というものがあれば

欠点は見えないだろう

negative(平成27年11月8日)

すっかり日本語に定着した

negative

ネガティブ

ネガティブなふんい気に

のみこまれないように

気をつけなくては

とくに雨の日には

ゆううつにならず

ほがらかに

雨すら楽しめるように

他人の言葉に傷つけられないように

傘をさして

否定する魂(平成27年11月8日)

NO

人はこの言葉を好む

だだをこねる子どものように

NO

この言葉を使うと

自分が強いと感じられるから

NO

人と人とをつなぐことも

人と人とを離れさせることも

いかようにも使える言葉

NO

自分を強く見せるために使うのは

やめた方がいい

NO  NO  NO

3連発で言われたら

退散するのが賢明というものだ