訪れる(平成27年2月27日)

私が眠るのではない

眠りが私に訪れるのだ

私が目覚めるのではない

目覚めが私に訪れるのだ

私にできることは

ただ待つことだけ

大事なものが訪れるのを

ひたすらに待ち続けるだけ

夕焼け(平成27年2月26日)

夕焼けは美しいと

人は言う

それはあらゆるものをおおいかくす

降る雪が町をすっぽりと

包み込むように

あらゆるものをおおいかくす

日々の悔恨も

失望も欲望も

だから夕焼け時は安らぎのとき

 

花鳥風月(平成27年2月26日)

花鳥風月を歌わない

なぜなら

彼らの美はすでに完ぺきで

私の詩を必要としないから

 

花鳥風月は歌えない

なぜなら

彼らの美しさに寄りかかることになるからだ

 

花鳥風月は歌わない

彼らは億年を超えて生き続けているから

一代限りの私とはすでにちがうのだ

 

美しいとは思われていないもの

誰からもかえりみられないもの

失われゆくもの

きえていくもの

私が歌うのはそんな世界

 

シンクロ(平成27年2月6日)

横断歩道の手前で

立ち止っていると

反対側に自転車に乗った

コートをはおりもしない

高校生カップルが目に入った

信号が青に変わり

カップルはゆっくりとそれぞれの自転車をこぎ

なめらかな動きでこちら側へ渡り

ふりかえる私の視界から消えていく

言い合わせたような

シンクロナイズされたふたりの身のこなしに

目を奪われた

午後3時

気温は8度

風はなく

小春日和の

放課後の

のびやかな時間が

二人に流れていた

 

 

 

夏と昆虫採集(平成27年2月4日)

遠く離れたフランスの

遠い時代に生まれた

サルトル少年は

夏のバカンスで避暑地へ行き

他の少年が虫取りに興じるあいだ

部屋にこもってひとり

百科事典を読みふけった

彼の心をとらえて放さなかったのは

この世界の成り立ちを知らずにはいられない

衝動であった

百科事典に満足したとは思えない

ますます渇望を抱いたことだろう

渇望をいだいた者だけが

愛知へと至る道を歩きはじめる

そのような人物であった

心血をそそいで(平成27年2月4日)

美術展の図録を作ることが

彼の仕事で

そこに心血をそそいだ

実際の作品と図録の色合いが

かぎりなく一致するように

幾度となくやり直し

作業は深夜に及び

日曜日に及ぶことがしばしば

完成した図録に彼の名は出ることがなく

会社名が記されるだけで

彼がした打ち込みようは人には知られなかった

月給があがるわけでもなく

満足のいく仕上がりを求めて

そのためにうちこんだ

自転車に乗れなかったピカソ(平成27年2月4日)

幼児のときから

絵を描くことに熱中した

ピカソは自転車に乗って

遊ぶことに興味がわかなかった

そのままおとなになり

終生自転車に乗らなかった

日曜日であろうと

クリスマスであろうと

休みなく絵筆をとった

こういう生涯をなんと呼べばいいのだろうか