いかないで(平成26年9月30日)

さあ夕飯の買い物に出かけなくては

腰をあげた母に向かって

お母さん

行かないで

外は暗くて雪が舞い始めてる

ボクはひとりでさびしくなるから

きのうの残り物を食べようよ

 

私は年老いてしまったから

さあ逝かなくては

お母さん

いかないで

いかないで

ひとりで生きていける

そんな年にはなっていても

ボクには代わりになるような友達もいない

 

どこまでも続く

果てしない雪原をマフラーを

巻いた母がただひとり歩いていく

遠い所へいってしまう母の

姿がいつまでも見えるのであった

 

誕生日(平成26年9月28日)

数え年で数えていた時代があった

正月にひとつ年をとる時代があった

そのころ誕生日はどんな日だったのだろう

子を産んだ母にとっては出産の日

出産の日を思い出すのが子の誕生日なのであった

英語を見てごらん

birthday

birthは出産のことだから

birthdayはホントは出産日なのさ

それなのに

birthdayは誕生日と

日本語になってしまった

子にとって

birthdayは母を思う日

自分の日と思ってはいけないよ

 

 

 

 

 

先祖(平成26年9月27日)

秋だから

そして晴れていたから

先祖のことを思うてみた

記録に残る先祖ではなく

弥生時代いや

そのまた昔の大昔の

先祖のことを思うてみた

先史時代  石器時代

衣服はむろんなく極寒極熱のなか

ひもじいままに

大陸を歩きに歩いてこの地に

たどり着いた先祖のことを

その強靭なる精神と身体とを

思うてみた

 

 

おしゃべりな詩人(平成26年9月27日)

おしゃべりな詩人がいた

ユーモア 機知 ウィット

あらゆる話題で楽しませてくれた

しかし詩神はとんと降りて来なかった

おしゃべりな詩人は

父が逝くと寡黙になった

時が過ぎて

母が逝くと

もっと寡黙になった

時をおかずはらからが逝くと

語る言葉を失い沈黙した

そうして

詩神は降りて来たのだった

 

『若きいのちの日記「愛と死を見つめて」の記録(平成26年9月21日)

半世紀にわたり読み継がれている本。

大島みち子さんの詩を再録したい。

病院の外に、健康な日を三日下さい。

一日目、私は故郷に飛んで帰りましょう。

そしておじいちゃんの肩をたたいて、

それから母と台所に立ちましょう。

おいしいサラダを作って、父にアツカンを一本つけて、

妹達と楽しい食卓を囲みましょう。

二日目、私は貴方の所へ飛んでいきたい。

貴方と遊びたいなんて言いません。

おへやをお掃除してあげて、

ワイシャツにアイロンをかけてあげて、

おいしいお料理を作ってあげたいの。

そのかわり、お別れの時、

やさしくキスしてネ

三日目、私は一人ぽっちで思い出と遊びます。

そして静かに一日が過ぎたら、

三日間の健康ありがとうと笑って

永遠の別れにつくでしょう

 

 

萩の紅白(平成26年9月21日)

紅白の萩の花

楚々とした可憐な花

名まえに似合わず繁殖力は旺盛

年に2回開花し根は四方八方に広がり

行きついた先で一群れの萩となる

放置されれば数年を経ずして

萩の林に成り代わる

深夜未明の分娩室(平成26年9月18日)

音が消えてしまったような

深夜未明の分娩室で

しずかにしずかに

ゆっくりとゆっくりと

赤子が産道をくぐって

頭から現れる

全身が外に出ると

声をあげて泣く

泣いているのではない

呼吸しているのだが

あまりに激しい呼吸は泣声になる

そばに二人の婦人がいる

一人はうれしさのあまりおしゃべりが止まらない

もう一人はうれしくて何も言わず涙がほおをつたう

後者は決まって生み終えたばかりの産婦の母である

乗り物酔い(平成26年9月15日)

「急ぐ」と一言云ったばかりに

タクシーは飛ばしに飛ばし

目的地に時間内に到着

乗客は眩暈に頭痛、嘔気に嘔吐

苦しみながらビル内に消えた

スピードに懲りた乗客は次の日

「飛ばすと嘔吐する」と運転手に警告

驚く運転手は時速30キロ

あわれに思ったのか

「お客さん」

飛行機は大丈夫ですか

船は 電車は 飛行機は

高速バスは 新幹線は

と乗り物づくしを始める始末

わたしはエレバーターが苦手でしてね

自転車にも追い抜かれる車中で

乗り物酔い談義に

花が咲く

季節は速足ですぎてゆき

酔い止めを服用し

機上の人となったくだんの乗客

滑走路に向かう機体に

大きく手をふる整備士の姿が

小さくなっていく

無事に飛んでくれ

手術を終えた外科医のように

願いのこもった両手の動きが目にしみた

 

 

 

 

 

 

朝はパニック(平成26年9月14日)

1分1秒も惜しい朝の出勤前

電話が鳴る

(ワンルームマンションのセールスだ)

ドアチャイムが鳴る

(宅配便だ)

トースターのパンは今にも

焦げそうだ

(すでに焦げてしまった)

トイレにかけこみたくなった

財布が見当たらない

携帯はどこだ

ヤカンの湯は沸騰し

空だきになろうとしている

コーヒーをのむ時間だけは

けずれない

毎日

朝はパニック

さようなら夏(平成26年9月5日)

短かった今年の夏

もう終わったのか

まもなく終わるのだろうか

気温が下がるのはうれしいけれど

夏が去るのはさびしい

さようなら夏

夏は来年また来る

けれど

私がまた来る夏に会えるかは

確かかどうかわからない