女三界に家なし
だそうだ
男三千世界に家なし
こんなにも男はつらいよ
男の隠れ家なんてとんでもない
住処すらない者に
隠れ家のあるはずはない
天空に蜘蛛の巣を張るがごとき
至難の業を強いられる
ああ蜘蛛がうらやましい
枝から枝へすばやく作り上げ
だんなよろしく獲物を待つだけ
作っても作っても破壊される巣を
きょうもまた作り続けるのだ
女三界に家なし
だそうだ
男三千世界に家なし
こんなにも男はつらいよ
男の隠れ家なんてとんでもない
住処すらない者に
隠れ家のあるはずはない
天空に蜘蛛の巣を張るがごとき
至難の業を強いられる
ああ蜘蛛がうらやましい
枝から枝へすばやく作り上げ
だんなよろしく獲物を待つだけ
作っても作っても破壊される巣を
きょうもまた作り続けるのだ
姉のわたしの
たったひとりの弟が
8月に逝った
妻とおさな児とわたしを残して
蝉の鳴く暑い日だった
わたしが思うただひとつのこと
もう一度きみに会いたい
わたしの命の半分を
きみにあげたかった
わたしの子が20歳になるまで
自分の命はそれ以上はいらないから
きみの子が20歳になるまで
生きさせてやりたかった
三十路になったばかりというのに
あまりにも早くきみは逝った
なんて哀しい8月
まだ話があるんだ
帰らないでくれ
ふりきって去って行ったきみ
短かった今年の夏のように
もっとそばにいてほしい
ずっとそばにいてほしい
きみの肩を抱いていたい
来年の夏が来るといわれても
来年また来るといわれても
そのとき
ぼくがいるかどうか
わからないのだから
もっと抱擁していたい
きみとふたりぴったりとくっつていたい
だから行かないでほしいきみ
短かった今年の夏
来年は来る 8月は来る
しかしそれは夏かどうか
雨と湿気
冷気と冷温
寒々とした心で
ぼくはいるかどうかわからない
こんなに哀しい8月が
まためぐりくるとは
6日 長崎
9日 広島
12日 御巣鷹山日航機墜落
15日 終戦
16日 精霊流しに五山送り火
涙なしには見られまい
霊はふたたび還っていく
一族郎党が集う賑わいが
引き潮のように去っていく
広島 豪雨 土石流
8月哀し
お盆をすぎて
海はすでに秋である
行きつけのコーヒー店主の
話しだ
豆を挽き
サーバーに入れて
湯をわかし
ゆっくりと泡立ちを見ながら
注ぐ
ひと手間をかけると
インスタントコーヒーとは異なる
飲み物ができあがる
しかし
コーヒーなんてどうでもいいこと
たかが飲み物なんだから
けれども人生全体となると話しが
ちがってくる
ほんのひと手間をかけるかどうか
その違いが積み重なって
大きな違いが作りだされる
人生における差異とはこのようなもの
夢まくらに立ったフロイトは昨夜
こんなことを語った
正気に生きることはむずかしい
正気とは
昨日は遠く過ぎ去った
だから忘れよう
明日はまだ来ない
だから考えないことにしよう
目の前のたった今に集中すること
これこそが正気に生きる道
フロイトの高弟たちはみな
正気に生きることのむずかしさに苦悩した
ましてわれら凡人が
正気に生きることはむずかしい
まして雨の日に
暗い想念に負けて
ただひたすらに日が照るようにと
願うこと以外何もできないのだった
デラウエアの実ふたつ
つながっているのを見つけた
ダンベルのようにも
酸素原子がふたつ、くっついて酸素分子に
なっている形にも見える
暑くてたまらず喫茶店に
涼みがてらコーヒーを飲みに行った
常連らしき一団のかまびすしいこと
こう暑くちゃね早く冬にならないかしらね
そう寒くなってマフラーを巻いてコートを着る
夏は衣裳が簡単でいいけどつまらない
冬はいろいろなアイテムを楽しめるわね
こんな話を聞きながら
吹きすさぶ風や舞い散る枯葉や
早すぎる日暮れまでが
恋しく感じられるのであった
えらくならないでね
私が会えなくなるような
えらい人に
ならないでね
こういって見送りされた男は
上京二年
胃を病み
やせさらばえて帰郷した
ふるさとの海を前に
非力をかこつのだった
一人二人、また一人と
ふるさと帰郷組がそろい
不運と失敗を嘆きあうのだが
海辺の町で
それぞれの道を歩き始めた
それから十年
妻子と食卓を囲み
職もあれば住む家もある
ないのは肩書きだけ
そんなことにはおかまいなしに
きょうも夕日が海に沈む
くだんの男の仕事は
父のあとをついで町の電気店
電話ひとつで身軽に出かけて
修理やら新品取り付けやら設置やら
アポもなしに突然の訪問をするものだから
相手は居たり居なかったり
田舎者とわらわれる
見送りされた女性に町で行き合えば
「○○ちゃん、元気?」と声がかかり
男のまなこに笑みがうかぶ
昨晩もフロイトが夢まくらに
立ち、こんな話をした
諸君はゲームについて知らないこと
真剣すぎず、不真面目すぎず
その加減が大事なのだ
きみの国の相撲という試合
あの真面目さが頃合いだ
アフリカヌバ族の相撲は片方が負傷するまで戦う
たかがゲームで負傷してはいけないよ
人生そのものも同じだ
真剣すぎても生きずらい
不真面目すぎても生きずらい