鉄道駅の昼下がり
改札口の近くでは
重い荷物を片手に
高齢婦人がひとり
人待ち顔でたたずむ
見渡しても椅子はなく
鳥の止まり木ふうの
椅子もどきが3つ
金属製の味気ないしろもの
このごろの鉄道駅ときたら
どこもかしこも椅子がきらいなようだ
人の体は変わらないのに
椅子の激変は目をおおうばかりだ
待って待たされ待ちくたびれて
駅に電車が止まるたび
人恋しさはつのりゆく
鉄道駅の昼下がり
改札口の近くでは
重い荷物を片手に
高齢婦人がひとり
人待ち顔でたたずむ
見渡しても椅子はなく
鳥の止まり木ふうの
椅子もどきが3つ
金属製の味気ないしろもの
このごろの鉄道駅ときたら
どこもかしこも椅子がきらいなようだ
人の体は変わらないのに
椅子の激変は目をおおうばかりだ
待って待たされ待ちくたびれて
駅に電車が止まるたび
人恋しさはつのりゆく
ネッスルのインスタントコーヒー
出始めのころに飲んだのが
初めての
コーヒー体験
長い年月がすぎて
レギュラーコーヒーをいれるようになった
たいした手間ではないと思うのだが
豆をひく
湯をわかす
湯をそそぐ
これだけのことなのだが
現代人は忙しい
マラソンランナーでもない人までが
歩きながらペットボトルから
水をのむ
立ち止って飲み物を口にすることすら
しなくなったわたしたち
(むせても知らないよ)
ワールドカップは終わった
アルゼンチンよ
またの名
いとしのアージェンタインよ
きみの名は
銀 シルバーである
だから準優勝が妥当だったのだ
けれどもフランスに行けば
きみは金の代名詞だ
そんなきみに優勝させたかった
(国名を銀と名乗るとは
まさか守銭奴だらけの
国民でもあるまいて)
夏炉冬扇といえば
夏が来たというのに
まだ暖炉をしまっておらず
冬が来ているのに
扇を取り出したままにしてある
万事することが遅すぎる人
そういう人がいる
けれども反対にせっかちな人も
世の中にはいて
夏が来たばかりなのにもうはや
冬したくを始めて暖炉をとりだし
冬が来たとたんに
夏の準備に扇を取り出しておく人
どちらかに傾きがちなのが人情というものか
神戸は海に沿った細長い町で
6~10×50キロメートル
パレスティナは
6~10×40キロメートル
どちらも長方形の
地形は相似形である
人口は神戸150万対パレ160万
昭和19年
神戸を空襲が焼いた
亡母が語っていた
家が焼けるほど悲しいことはないと
野坂昭如『火垂の墓』もまた
神戸空襲を描く
2014年7月
パレスティナにイ軍が空爆を繰り返す
焼ける家、死傷する市民
神戸とパレスティナとは
相似形である
近くにお寄りの節は
お立ち寄りください
こう結ばれている
ひな形とおりの転居通知
夜逃げでもなく
零落でもないことが
こうしてそっと伝えられる
人には言えぬわけがあって
転居する人も多かろうに
三行半はいけないものと
相場は決まっている
説明不足
ぶっきらぼう
江戸の離縁状に対して
非難ごうごうである
かといって
いたらぬ点を
事こまかに記されては
再婚にひびくというもの
そこはさりげなく三行半
何と何と
粋なはからいではないか
江戸の知恵にほかならぬ
天気予報は雨なのよ
君は言うので
傘を持たずに外出した
財布を忘れ
ビニール傘を買うこともできず
雷雨にうたれてぬれねずみ
きみが海が好きだというので
ぼくは山が好きだと
言ってしまった
ほんとうはね
ぼくも海が好き
そして
きみが好き
みんなちがって
みんないい
金子みすずは歌うのだ
(ひまわり畑を見てごらん
みんなちがった方向を向いている)
それならば
ちがった歌を私はうたう
人みな同じ
愛する人と出会ったとき
心に羽がはえて飛んでいかんばかりに
人は喜び有頂天
愛する人との別れの日に
人は悲しみ肩を落とす
だから
人はみんな同じ
春に生まれた
子ネコは夏が来て成長した
母ネコから離れてひとりで
生きていく日が近づいた
お母さん
わたしはとても不安なの
お母さんから離れた後
わたしはどうやって生きていけばいいの
子ネコは真剣なまなざしで母ネコを見つめる
それはね アリエッティ
(子ネコの名前はアリエッティという)
いつも愛に満ちていることよ
そうすればあなたを愛する人が現れる
なにをしてもうまくいく
つぎつぎと幸運がおとずれて
明るい光のほうへ
みちびいていってくれる
どんなことがいつ起きるかは
そのときが来るまではわからない
つらいことが幸運だったりもする
あなたがすることはただ
いつも愛に満ちていることだけ
お母さんの言うとおりにしてみる
けれど
愛に満ちている、ってどういうことなの
今のあなたにはわからなくて無理もない
いつかわかるときがくる
私もずいぶん長いあいだわからなかった
あるとき
私はわかったの
だからあなたもきっとわかるから
不安にならなくていいのよ
つぎの日 朝早く
くっついて寝ていた母ネコから
離れて子ネコはひとり歩き始めた
石畳の冷たさや
湿った地面の暖かさを
足の裏で感じながら