仕事場を遠く離れることに制約を受ける仕事に携わっているので、在宅で楽しめることがないかなと探していたところ、楽しいことを見つけた。コーヒー好きが嵩じて、生豆を自家焙煎したくなった。そこで、ある商店から生豆と焙煎の道具を購入した。ほうろくにそっくりの道具で煎るだけのことで、複雑なことは何もない。ただ手間と時間がかかるだけだ。焙煎の機械が販売されていることは知っていても、使ったことも見たこともなく、購入したのはいいけれど台所の隅でほこりにまみれて放置してしまいそうな気がして、今のところは、ほうろくのような道具を使用して、つまり手動式で焙煎している。ガスの火で20分ほど、根気よく煎っている間に豆が容器からこぼれるのを拾ってみてその熱さに指がやけどしそうになる。最初はこげるような匂いが立ち上り、やがて生豆が茶色に色づいてくるにつれて、香ばしい匂いが台所中に立ち込める。煙が立ち上り、パチパチと豆が音を立てる。長い辛抱が報われる時だ。もしも毎日焙煎していると、その香りが壁にも食卓にも椅子にもしみ込んで、台所がコーヒー専門店の匂いを放つだろう。豆を粉にするのに手回し式のコーヒーミルを長い間、使っていたけれども、とうとう電動式に取り替えた。そうしてから、だいぶ日が過ぎた。細かな粉にして、たっぷりと紙のろ紙に移し変える。ときどき、こぼしてしまって悔しい思いをする。注ぐお湯は少なめに入れて、濃い目にする。するとどうだろう。どこの喫茶店で飲むよりもおいしい自家製コーヒーのでき上がりだ。と言いたいところだけれど、実際には煎り加減がうまくいかないことの方が多い。煎り方が浅いと酸味が強くなってしまう。インターネットで調べると、生豆を販売している商店は結構たくさんあることがわかる。生豆の種類をいろいろ取り替えて、味わってみたい。と思っていたら、コーヒーに詳しい人の本を読むと、産地よりも煎り加減で味わいが決まるという。
(2005年3月25日擱筆)